約 1,574,464 件
https://w.atwiki.jp/3dsmiisuretigai/pages/12.html
コメントプラグイン @wikiのwikiモードでは #comment() と入力することでコメントフォームを簡単に作成することができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_60_ja.html たとえば、#comment() と入力すると以下のように表示されます。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/209.html
その日、飯波高校に来ていたお客と生徒たちは突然の出来事に騒然としていた。 突然昇った紅い月。それを認識していたがために。 もっとも、わずかの混乱で、それはおさまった。 ただ、空に紅い月が輝いているだけで、特に何か起こると言うわけでもない。 ただの珍しい天体現象。そう、彼らは考えていた。 そう、この紅き月の意味を知る者は10人といなかったのだ。 それが、この世界を化け物であふれさせかねないものだなんて。 駒犬銀之介は人気のないベンチで1人空を見上げていた。 瞳に映るのは狼に変ずることは無い紅い満月。 「…そういや今日は元々満月の日だっけ」 思い出して苦笑する。満月が昔ほど致命的じゃ無くなったせいか、危機感が薄れている。 半年前、唐子のお陰で銀之介は満月を克服した。 今の銀之介ならば、満月を見ても正気を失うことは無い。 「唐子のお陰、だよな」 半年前、銀之介が満月を克服できたのは、唐子のおかげだった。 彼女のお陰で、忌み嫌ってた満月を見た自分、ワイルドウルフも自分だと気づけた。だから、制御できる。 「思えば…あの時かも」 銀之介にとって、一番好きな子が、誰だか分かったのは。 爪と牙が、何のためにあるのか、分かったのは。 「僕は、唐子のことが…」 銀之介の気持ちははっきりしている。この街と、好きな子を守りたい。 けれど… 「幸せになって欲しいなら…黙ってないと…」 唐子ならばもっと良い人を見つけられる。わざわざ狼人間と一緒になることなんてない。 「そう、分かってるのに…」 銀之介は唇を噛みしめる。ひどく辛そうに。もどかしそうに。 そんなときだった。 「それは、アンタが決めることじゃないでしゅ」 ふわり、と。 そんな風に思い悩んでいる銀之介の隣にマントをはおった少女が舞い降りる。 紅い月に負けないほど、真っ赤な髪を持つ少女。 「サフィーちゃん?」 仲間の吸血鬼の少女を見て、銀之介は驚いた。 「まさか…聞いてたの?」 「唐子のお陰、あたりからね」 サフィーは肩をすくめる。その口調と瞳は、普段演じてるお子様のものじゃなく、完全に大人のものだった。 それを見て、ふと、銀之介はサフィーに尋ねる。 目の前のものすご~く長生きしている少女なら、答えてくれる気がして。 「じゃあ…サフィーちゃんはどう、思うの?」 「当然、自分の気持ちを伝えるわ」 銀之介を見上げ、はっきりと答える。 「だいたい、その事でウジウジ悩むのがお門違いって奴なの」 ビシィッとサフィーが背伸びをして銀之介の胸元に指を突き付ける。 「言って、最後に受け入れるかどうか決めるのは、相手の方。だったら、狼と一緒になる覚悟がある かも含めて、聞けばいい。 ダメならすっぱりあきらめて、OKだったらその子が少しでも幸せになるよう最大限に努力する。それでいいじゃない」 そう言いきるサフィーの目に、迷いは無い。絶対にそうする。そんな気持ちがしっかりと現れている。 その様子に、銀之介は苦笑する。 「…すごいな。サフィーちゃんは。僕には、とてもそこまで決心出来ないよ」 「そ~じゃないと生き残れなかったのよ。迷ってたら、とっくの昔にくたばってたわ」 「そうなの?サフィーちゃんがそうそう死ぬとも思えないけど」 くたばってたと言い切るサフィーに銀之介は首をかしげる。 サフィーの強さを、銀之介は知っている。目の前の小さな女の子は、本気の狼人間と対等以上にわたりあえる吸血鬼なのだと。 それに、寿命とかも吸血鬼になったら関係ないとも、聞いていた。 その様子を見て、少しだけ気まずそうに、サフィーはどこか遠くを見て言った。 「…アンタに1つ、つまらないことを教えるわ。アンタが見てたあの劇、あれってある意味ではノンフィクションなのよ」 最初、銀之介はサフィーの言葉の意味が理解できなかった。 「…え?」 「吸血鬼はね、ちょっと前まで吸血鬼を狩る吸血鬼狩人に狙われ続けてきたの」 脳みそにこびりついた嫌な記憶を掘り起こしながらサフィーが言葉をつづる。 「そりゃあアタシらだって馬鹿じゃないし、普通の人間よりはずっと強い。 けれどね…数の暴力と、あいつらの中に混じったヤバい連中全部敵に回したら、逃げ回るしか無いわ」 銀之介が息をのむ気配を感じながら、サフィーは話を続ける。 「あの話を書いたのは、アタシの妹。ちょうどその頃あの子も追われてたわ。ブラックウィナー…それも吸血鬼の奴にね」 吸血鬼、と言う言葉を特に強調して、言う。 「きゅ、吸血鬼?」 「そ。あいつら、生きたまま捕獲した吸血鬼の心臓に爆弾埋め込んで言うのよ。『死にたくなかったら、吸血鬼を殺してこい』ってね」 「そんな…酷すぎるじゃないか、そんなのって」 「…あそこのトップは吸血鬼1人殺すために街一つ滅ぼすのも躊躇しない最低のクソ野郎だったわ。 何を今さらってところね」 だからこそサフィーは戦うことを決めた。あんな奴に蘇ってもらっては困るのだ。自分も、家族も。 「アタシはね、そ~ゆ~連中から逃げ回るのを500年も続けてきた。だから、知ってる。 後悔とか迷いとかは生き残るのには邪魔。抱えたままじゃ、死ぬわよ」 再びサフィーは銀之介を見る。 「だから、どうするのかは今決めなさい。アンタに、あいつらと戦う気があるんなら」 そして、黙りこむ。銀之介の返答を聞くために。 「…分かった」 銀之介が口を開いたのはそれからたっぷり5分経ってからのことだった。 「言わないままじゃ、僕も前に進めないから」 その銀之介の顔には、もう迷いは無かった。ただ、静かな決意だけが宿っている。 そう、銀之介は決めたのだ。 「僕は唐子に本当の気持ちを伝えることにするよ。この戦いが終わったら…」 そして、背中をおしてくれたサフィーにありがとうと伝えようとした、その瞬間だった。 「ちょぉぉぉっっっっとまてぇぇぇぇぇぇいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」 ガサッと音を立てて、近くの茂みから何かが飛び出してくる。 ショートヘアーの、活発そうな女の子。ついでに言えば、メイド服。 要いのりは銀之介に詰め寄って、言った。 「なにそれ!?なにその戦う前のやたら不吉なセリフは!? なんかもう最後に全力振り絞って相討ちになって血まみれで『ごめんな…唐子、僕は本当は…ぐふっ』とか言ってるシーンがアリアリと見えたわ!?」 妙に凝った設定つきで。 「い、いのりちゃん?一体どこから聞いてたの?」 「唐子のお陰、あたりから!」 割と最初からであった。 「とにかく!そ~ゆ~不吉な真似は駄目!せめて行く前に伝えろっての!唐子さんもそう思うでしょ!?」 そう言っていのりは別の茂みの方を向いて、言う。 ガサッと再び茂みが音を立てる。 そこから現れた少女の姿に銀之介の目が丸くなる。 「と、唐子…?一体いつから?」 「え、えっと…唐子のお陰、あたりからかな…」 割と最初からであった。 唐子は真っ赤な顔になっている。唐子だって年頃の乙女。銀之介が何を言いたいのかなってのは、何となく、分からないでもない。 だけど、そこはそれ、本人の口から聞きたいのが乙女心ってやつである。 「え、えっと…その…」 銀之介も真っ赤になっている。銀之介だって純情一路な青少年。唐子が期待してる言葉は何となく、分からないでもない。 だけど、そこはそれ、いざ口に出すのは恥ずかしいってのが男心って奴である。 ちなみに2人ともパニクり過ぎてすぐそばで興味シンシンで見ている4人を追い払うのすら忘れている。 そんなじれったい時間がちょっとだけ過ぎて、銀之介は手に人と言う文字を3回書いて飲み込んだ。 「唐子…その、僕は、唐子と、一緒にいたい」 銀之介、一世一代の決心の言葉であった。ちょっと頼りないけど。 なにそれー、もっとはっきりと言いなさいよ~とか外野からの声も聞こえてない。 「2年間、ずっと一緒だった。それで分かったんだ。僕には、唐子がいる。唐子が一番大事だって。 何があっても、僕はきっと唐子を守ってみせる。だから…その…これからも一緒にいて、くれるかな?」 ごくりと固唾をのむ。 再び沈黙の時間。それが過ぎて、唐子は苦笑して、言う。 「もう、銀之介君は…もうちょっとちゃんと言って欲しかったな…でも、銀之介君らしいや」 そう、唐子が一緒にいた銀之介は、ちょっぴり気弱で、臆病で…とっても優しい男の子。 その彼が言う言葉は飾り気も素っ気もないが、本気の言葉だった。 だからこそ、唐子もまた、本気の言葉で伝える。飾り気も、素っ気もない言葉で。 「もちろんだよ!あたしたちはずっとず~っと一緒!ね?」 そしてにっこりと笑う。それが、自分には一番似合うから。 だがその直後、唐子はその事に気づいて、ちょっとだけ笑顔を曇らせる。 「あ、でもそ~なると飯波市からは出ないと、駄目かな。銀之介君、狙われてるし。 お父さんなら分かってくれると思うけど…う~ん」 「あら、その心配は無いわよ」 悩み始めた唐子に声が掛けられる。ゴージャスでエレガントでクイーンな声(どんなやねん) その声の持ち主にその場にいた全員が声の聞こえた方を見る。そこには 「やあ、盗み聞きをするつもりじゃあ無かったんだけどね」 いつもの笑顔のままの静と。 「あたしに任せときなさい」 倉地の姿があった。 銀之介が突然現れた2人に聞く。微妙な確信を持ちながら。 「先生…それに、静さん…一体、いつから?」 その言葉に、2人は顔を見合せて… 「そりゃあ…」 「まあ…」 「「唐子のお陰、あたりから?」」 ハモった。ていうかやっぱり割と最初からであった。 「いや~いきなり青春劇場が始まったりサフィーちゃんの昔話を聞いたり色々してて出そびれたってわけじゃなくてね?」 「そ、そうよ?ただちょ~っとこのまま見てた方が面白いんじゃないかな~とか思ってないわよ?」 激しく言い訳くさく、2人が銀之介に言う。 「…も~いいです」 がっくりと疲れた声で銀之介が言う。 「…ま、とにかく。この街に関してはあたしに任せときなさい」 倉地がボリュームたっぷりの胸を張る。 「ファンクラブの連中にはあたしからきつ~く言っといてあげる。あたしのファンだってんなら、聞 くでしょ。従わないなら…ね?」 にっこりと笑って、言う倉地に銀之介は変身してないけど本能で感じた。この人は、強い。 「あ、ありがとうございます」 銀之介がその迫力にタジタジとなりながらもお礼を言う。 「いいのよ。あなたも唐子さんもあたしの生徒だったんだもの。できることがあるなら、助けてあげるのが先生ってものでしょう?」 優しい目をして倉地が言う。 「と、言うわけだから安心して、この街で暮らしなさい」 * あの後、周りの生温かい配慮により、銀之介と唐子は正真正銘の2人きりになっていた。 「なんだかさ…今日は…ほんと~に色々あったね」 「ああ…」 たった1日の学園祭で本当に色々あった。目まぐるしい位に。 「でも、よかった。ず~っと一緒にいられるってさ。この街で」 「ああ…なんだかまだ、夢みたいだ」 追われることのない生活と、ずっと大切な人と一緒にいられること。 ずっと欲しかったものが一度に2つも手に入った。 「うん…これで、決心がついた」 銀之介は唐子の方を見る。まっすぐに。 「唐子…僕は、守って見せる。唐子も…この街も。だから…」 「…うん。止めない。だって、あの人たちと銀之介君が負けるはず、ないもんね」 唐子もまたまっすぐに銀之介を見て、はっきりと言う。 「負けたら、承知、しないからね」 「分かってるよ。僕は、負けない。負けるわけに、いかない」 静かな決意を込め、男の顔になって、銀之介は言う。そして… チュッ 銀之介は、唐子と2回目のキスをした。 「…へ!?」 突然の出来事に、唐子が思わず混乱する。 それに銀之介は少し赤くなりながら、言った。 「ごめん。前にしとかないと、変身、とけちゃうから」 そして、空を見上げる。 空には相変わらず紅い月がでている。紅くて丸いその月を見ても、銀之介は変身しない。 その月を瞳に写しながら、銀之介は呟いた。 「満月は、心の中にある」 昔、父親に聞いたことがある。どうすれば、好きなように変身できるようになるのかって。 その答えがそれだった。その言葉を言った本人は、こうも言っていた。 意味は自分で考えろ。自力で気付かなきゃ、意味が無い。 「あの時は、意味が分からなかった」 だけど今なら何となく、分かる。 大事なのは… 「嫌がることも怖がることも無く、自分で狼に変身したいって思うことだったんだ!」 その瞬間、銀之介の瞳には確かに映っていた。美しく、黄金に輝く満月。 そう、一番大切な人の笑顔にそっくりな満面の光を放つ満月が! …ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!!! 血が昂ぶる。その昂ぶりのままに遠吠えをして、銀之介の身体が膨れ上がる。 変身すると同時に、狼の本能が目を覚まし、様々なことを要求する。 食わせろ、子孫を残せ、全部壊せ、ぶち殺せ… 全部却下だ。今やるべきことは、たった1つ。戦うこと。 その瞬間、銀之介はついに完全に狼を飼いならした。 「…じゃあ、行ってくる」 変身を終え、優しい瞳を持った狼が言う。最愛の少女に対して。 「うん!行ってらっしゃい!」 それを少女は満面の笑みで返した。他の表情は、戦うことを決意した、強く優しい狼にはふさわしくないから。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/184.html
吠え声を上げながら、悪魔は心の中で大笑いしていた。 何しろ、召喚者直々にこの世界で暴れる許可が出たのだ。 悪魔は、契約なしではこの世界では何もできない。 契約違反を犯してウギルナルガードが粛清されたのがついこの前。 下手な真似はそのまま死を意味する。 だが、今回は違う。契約を結んだ。この世界で暴れろ、と。 まずは目の前の連中をぶち殺して、迂闊な契約を結んだ召喚者もぶち殺す。 そう、悪魔は決めていた。 悪魔は知らなかった。異世界の一部では常識であること。 悪魔には軍隊でも勝てない理由は、悪魔が魔界の力で守られているから。 その魔界の力、異世界で月衣と呼ばれる力が通用しない連中がいること。 それがちょうど目の前の4人であること。 そう、本来なら考える必要すら無かったのだ。 自分が逆に倒される可能性なんて。 * 「サフィーちゃんは距離をとって魔力を集中!銀之介君といのり君は悪魔に突っ込んでくれ!」 戦闘の開始と共に、静が3人に命令を下す。 そして、それと同時に、移動の魔力が付与される。 「え?え?」 「い~から!一緒に来て」 突然の出来事に困惑する銀之介を引っ張っていのりが悪魔に突っ込み、 サフィーが悪魔の巨体から放たれる攻撃に巻き込まれない位置まで下がる。 「行くよ!ファイアーワークス、《サバイバルモード》!」 いのりが自らのプラーナを餌にファイアーワークスの力を限界まで開放。 そして、銀之介よりも早くいのりと静が普段なら考えられないほどの高速で行動を開始する。 プラーナをより早く行動するために開放したのだ。 「魔力の強さから考えて、こいつはアークデーモン級。こいつ相手に僕の魔法じゃ心もとない。だったら…」 高速で静は相手を分析する。 「…僕は援護に徹する!」 分析が終わると同時に静の魔法が完成する。 「…《スロウ》!」 静の魔法は悪魔の抵抗力を易々と上回り、悪魔の動きを鈍らせる。 「今だ!いのり君!」 「おっけ~!行くよファイアーワークス!」 その瞬間を見逃さず、いのりが攻撃に転じる。 ファイアーワークスの剛腕から、攻撃が放たれる。 その攻撃は鉄よりも硬い悪魔の皮膚を易々と貫く。 それと同時に。 「銀之介君!」 「わ、分かった!うりゃあ~!」 困惑しながらも放たれた銀之介の狼パンチがファイアーワークスの開けた穴に叩き込まれ、更に傷を大きくする。 「もういっぱ~つ!」 どこか楽しげにいのりが再び攻撃を叩き込み。 「ほら、銀之介君も!」 「え?あ、も、もういっぱ~つ!」 銀之介が連携して攻撃をする。 「じゃあ、後は頼んだよ!」 悪魔が動き出す気配を察して静が後ろへと下がる。 魔術師が攻撃に巻き込まれたら、死ぬ。歴戦のウィザードである静は、そのことを当然のように理解していた。 かくして。ようやく悪魔が行動を開始できるようになった頃。 悪魔はすでにボロボロだった。 (な、何がどうなっている!?) 内心、悪魔は大混乱していた。当然だ。悪魔と対等以上に渡り合う人間界の生き物など、存在しない。 絶対的な暴力のぶつかり合いで悪魔が負けるなどありえるはずが無い。 それは、人間外の吸血鬼や狼人間相手でも同様である。 それが、数万年は生きている悪魔にとっての常識だった。 その常識が悪魔の判断を間違えさせた。 悪魔のプライドに駆けて、尻尾を巻いて逃げるなど、認められなかったのだ。 悪魔がその力を振りしぼり、全力で攻撃を行う。 避けられないように高速で尻尾を振りまわし、その爪で持って2人を引き裂く。 戦車すらも破壊できるほどの一撃。 「…ぐわあ!」 銀之介が一撃で瀕死寸前まで追い込まれる。 先ほど静に傷を治してもらってなければ死んでいたかも知れない。 「やっべ死ぬ死ぬ!」 慌てていのりがファイアーワークスに全力で防御させ、プラーナを開放して防御に回す。 それでもなお、ファイアーワークスの防御を貫き、悪魔の一撃はいのりにかなりのダメージを与えた。 「いたた…」 その様子を見て、悪魔は余裕を取り戻す。あと1回、攻撃すれば奴らを倒せる。 だが、次のいのりの言葉で悪魔は凍りついた。 「と、言うわけで後は頼んだよ。せんせい、サフィーちゃん!」 悪魔は怒涛の攻撃を受けていたために忘れていた。敵は全部で4人だと言うことを。 「…《ヘイスト》」 静の魔法がサフィーに素早く動く力を与える。 「これでよし。後は…撃つだけだ。頼んだよ、サフィーちゃん」 「まかせときなさい」 何もサフィーはただぼ~っと3人の戦いを見ていたわけでは無い。 自らの中に眠る、隠された力。 それを無理やりに叩き起して使う、サフィーのとっておき。 普段は疲れるから使わない、ここぞと言うときの切り札。 ファー・ジ・アースの吸血鬼が《拘束術式》と呼ぶそれを、サフィーは準備していたのだ。 「今度こそ、一撃で仕留める」 じっくり、じっくり練り上げた強力な不可視の力。引き絞った弓のように強力なそれを更に収束させる。 不可視の力を限界まで収束させた魔法が、どれだけの威力を叩きだすか、サフィーにとっても未知の領域だった。 流石に不利を悟った悪魔が逃げ出そうと背中を向ける。だが、すべてが既に遅かった。 「…《ヴォーティカルカノン》」 言葉と共に悪魔の身体に大穴が開く。そして断末魔と共に悪魔が塵へと変わる。 かくして、悪魔は完全に消滅した。 「お、終わった…のか?」 銀之介が思わず溜息とともにその場にへたり込む。 今まで命がけの戦いと言うものをほとんど経験していない銀之介にとって、悪魔との戦いはとんでもなくきつかった。 「つ、疲れた…」 プスン どこか間抜けな音とともにファイアーワークスがしぼむ。供給するプラーナが切れたのだ。 「ところで、そろそろ傷を治して欲しいんだけど…」 戦いが終わって自分が大怪我をしていたことを思い出したサフィーが静に回復魔法を要求する。 そんな3人の様子を見て、静が提案する。 「とりあえず、色々と話したいこととかはあるけど…今日はもう、休むことにしない?」 3人は1も2もなく頷いた。 * ガラガラ…ピシャン! 「みんなおっはよ~!」 今日も今日とて元気な声が飯波高校に響き渡る。 その声を聞いて、1年2組の元気娘がやってきたんだなと思ってそちらを見たみんなは絶句した。 湿布、包帯、絆創膏。いのりは全身傷だらけだった。 あのあと、とりあえずダメージの大きい2人に回復魔法をかけたところで静のMPが切れ、 いのりに回復魔法をかけることができなかったのだ。 「いや~階段で足滑らせちゃってさ。最近の階段は怖いね!」 一身に浴びている視線に気づき、照れくさそうに言ういのり。 (嘘つけえええええええええええええええええええ!!!!!!!???????) クラスの心がひとつになった瞬間だった。 「おはよ~ございま~す」 そんなことは露知らず、教室にぐるぐるメガネのおかっぱ少女が入ってくる。 「あ、春美ちゃんおはよ~」 ここ1週間ほどですっかり馴染みになった春美にいのりは挨拶を返す。 そんないのりを春美はじっと眺め、言う。 「うんうん。昨日怪我したって聞いてたけど、お元気そうでなによりです」 「へ?春美ちゃん、どこで聞いたの?」 不思議そうな顔をして、いのりは春美に聞き返す。その瞬間、春美の眼鏡がきらりんと光る。 「ふっふっふ…私の情報網、なめちゃいけませんよ?新聞部じゃあ“聞き込み”の春美って有名なんです」 どうやら独自の怪しげな情報網で持って調べたらしい。 「そ、そ~なんだ。う、うんだいじょ~ぶだよ。明日になったら多分せんせいがなお…」 「明日?せんせい?」 「う、ううん!な、何でも無い!」 そ~いえばいきなり治ったら思いっきり怪しまれることに気づいて慌てて訂正する。 (し、しまったあ~!?しばらく包帯とか巻いとかないと!) 面倒なことになったと思ういのりであった。 あっと言う間に時間が過ぎて、放課後。 「…ってなことがあってさ~、やっぱり休んどきゃよかったよ~」 不思議研の部室でがっくしと机につっぷしていのりが静に愚痴る。 姉と違って学校を休むと言う発想が全然出てこない自分の健康優良児っぷりが恨めしい。 「はっはっは。そう言えばそうだねえ。輝明学園ではよくあることだから気にしてなかったよ」 そういって笑う静には、傷一つ無い。そもそも怪我してない。 「…なんかびみょ~に納得いかない」 ジト目で、無傷の静を見て言う。 サフィーと銀之介は自分よりボロボロだったせいか、1人無傷の静が余計に納得がいかなかった。 「仕方ないだろ?耐久力は一般人に毛が生えた程度の僕があいつの攻撃を食らってたら、今頃学校どころじゃないよ」 いのりのように凶悪な魔物に守られてるわけでも、サフィーや銀之介のように人間離れした体力を持ってるわけでもない。 そんな静が悪魔の攻撃を喰らったら、そもそも生きていないだろう。 「そりゃ~そうだけどさ…」 それでも納得がいかないいのりが言葉を続けようとした、そのときだった。 「良かった!静さん、まだ残ってたんですね!」 「いのりさん、やっぱりここにいたんですね!」 1Pカラーと2Pカラーのぐるぐるメガネ少女が同時に入ってくる。 2人は何事かとそちらを見る。 「やあ、どうも小夏さんに春美さん。何かあったんですか?」 騒々しく部室に入ってきた不思議研コンビに、静が問いかける。 「今日は隣街に買い物に行くと言っていたように思うのですが」 「そ~いえば…」 いのりも春美から聞いていた。何でも隣街でオカルト市があるとかで2人してそこへ行くと。 「はい!色々買えて楽しかったですけど、とんでもないものを見つけたので、静さんにも見て欲しくて!」 そう言うと小夏はカパッと鞄を開けて逆さにする。 中から怪しげな人形だの透明な石っころだのよく分からんものがごろごろ出てくる。 そして、小夏が一冊の黒い本を拾い上げた。 「これです!春美ちゃんが古本の中から見つけ出したんですが…」 「…ぶちょ~、それ、何の本ですか?」 その本の表紙にはよく分からん文字で題名やらなんやらが書いてある。いのりには読めない文字だ。 だが、いのりには微妙に見覚えがある気がしていた。 「はい!よくぞ聞いてくれました!」 ずずいっといのりに近寄って、小夏が解説する。 「どうやら、昔の魔術書らしいんです!由来とかは分からないけど、何でも書いたのは悪魔で、悪魔の呼び出し方が書かれてるって!」 そう語る小夏はめっちゃうれしそうだった。 「ははは…悪魔の呼び出し方…ね」 つい昨日その悪魔と戦ったいのりが乾いた笑い声をあげる。 「そんなの、きっと偽物ですよ。ね?せんせ…せんせい?」 背中を伝う嫌な予感を無視しながら、隣の静に話しかけようとして、気づく。 静の顔色がまっさおになっていることに。 (いのり君…悪いニュースだ) 2人に聞こえないように小さな声で、静がいのりに話しかける。 (なんですか?悪いニュースって) (うん…あの本、本物だ) (ええっ!?) (昨日、あのアラキが使っていた魔導書と同じものだよ。少なくとも表紙は) (じゃあ…) (あれに書いてある通りにやったら…) (うん。悪魔が召喚されるね。多分) サー いのりの顔もまっさおになった。 あんなのともう1回戦うなんて、いのりも静もまっぴらごめんだった。 「どうやらラテン語で書かれてるらしくて、まずは解読から…」 ヒソヒソ話している2人に気づかず、小夏が楽しげに言いだす。 「や、やめしょう部長!」 「そうです。その手のものは素人が適当に手を出すと危険ですよ!」 慌てて2人して小夏を思いとどまらせようとする。 「え~?」 小夏が不満そうに漏らした。 その後、小夏を説得してなんとか諦めさせるのに2時間を費やすことになる2人だったのだが、その内容は割愛する。 * 「う~ん」 唐子は目の前の少女を見て、首をかしげた。 「なんでしゅか?」 目の前にいるのは、やっぱりあちこちに包帯をまいたサフィー。 大きなコップで、コーラを飲んでいる。 「サファイアちゃん」 「サフィーでいいでしゅ」 「じゃ、サフィーちゃん…」 「なんでしゅか?」 「サフィーちゃんってほんと~に…」 「吸血鬼でしゅよ?しょ~しんしょ~めい」 昨日、眼鏡をかけた少年を連れてった銀之介は奥の部屋でうんうん唸っている。狼の姿のまま。 回復魔法が十分かける余裕が無かったため、ボロボロのままで帰ってきて、今は狼人間の生命力で必死に治しているのだ。 そのお見舞いとしてサフィーがたずねて来たのはつい先ほど。 「いやあ、銀之介君も言ってたし、信じないわけじゃ~ないんけどさ…」 サフィーの方を見る。 ちっちゃい女の子だった。銀之介の従妹の少女よりも。 真昼間から訪ねてきた。太陽がさんさんと輝いているのに。 コーラを平気で飲んでいた。っていうかよくうどんを食べに来ていた。 ぶっちゃけ吸血鬼に見えなかった。 「…ま、確かに今のアタシは吸血鬼としては変でしゅけどね」 唐子の言いたいことを察して、サフィーが苦笑する。 サフィーにしてもほんの1週間前まで想像もしていなかった。 平気で昼間から出歩き、人間の食べ物を食べるようになるなど。 「けど、事実でしゅ。アタシは吸血鬼でしゅ。それは変わらないでしゅ」 きっぱりと言い切る。吸血鬼としての力は失われていない。 血を吸えば傷を治せるし、不可視の力だって使える。無くなったのは弱点だけ。 「ふ~ん。あ、じゃあさあ…」 納得したのか、唐子はさらにサフィーに聞く。 「吸血鬼の知り合いもいる?」 「…まあ、少しなら」 長い間追われ続けてきた吸血鬼は家族以上の群れを作らないため、サフィーはあまり他の吸血鬼というものを知らない。 ブラックウィナーがなくなってからは吸血鬼同士が連絡を取り合ってお互いに会うこともあるらしいが、サフィーはあんまり積極的に関わってはいなかった。 「それじゃ、ジルさんと森写…なんとかさんって人、知らない?」 だが、唐子が口にしたのは、その数少ない知り合いだった。 サフィーは思わず怪訝そうに聞き返す。 「ジルと森写歩朗って…コニーとトナ?」 「知ってるの!?」 「知ってるも何も…」 驚きながらサフィーは言う。 「妹とその旦那でしゅ」 「妹!?」 唐子は思わず例の写真を取り出す。 「え?だってど~みても10歳は年上…あ」 改めて写真とサフィーを見比べた唐子はきづいた。その写真に、サフィーがしっかり写っていることを。 おしゃれをして、ドレスを着ているが、この赤毛は見間違えようが無い。 「ほんと~にいた。ってことは…」 「だからマジでしゅ。っていうかどこでその写真を手に入れたんでしゅか?」 「えっとね。あたしと銀之介君の知り合いに漆野さんって人がいて…」 「漆野?漆野…ああ、花ちゃんのときの刑事でしゅか」 あの時はコニーとトナが誘拐事件に巻き込まれたとかで大変だった、らしい。 直接的にはほとんど関わって無いのでよく知らないけど。 「吸血鬼になってからは年取らないから見かけと年齢は全然あてにならないでしゅ。 これでもコニーより300歳は年上でしゅよ?」 スケールの大きな話である。 「300歳…すごい年の差だね」 唐子が目を丸くして言う。 「吸血鬼にはよくあることでしゅ」 サフィーは肩をすくめて答えた。 「それにしても…」 ふと、大人の口調でサフィーは呟く。 「狼男に吸血鬼、とどめに悪魔。一体この街で何が起こっているのかしら…」 その小さな呟きは誰の耳にも入ること無く、消えていった… ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/sumassyuif/pages/34.html
※派生シリーズはそのもとのシリーズのページにリンクがあります シリーズ アイコン ファイター 大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ スマブラロゴ × 大乱闘スマッシュブラザーズDXシリーズ 戦場のシンボル × 大乱闘スマッシュブラザーズXシリーズ 亜空軍のシンボル × 大乱闘スマッシュブラザーズforシリーズ 燃えたスマブラロゴ × 大乱闘スマッシュブラザーズSPECIALシリーズ キーラ × Mii Mii ○ スーパーマリオシリーズ スーパーキノコ ○ ドクターマリオシリーズ カプセル ○ レッキングクルーシリーズ ゴールデンハンマー × ペーパーマリオシリーズ ペーパーブーツ ○ ドンキーコングシリーズ DK ○ ヨッシーシリーズ ヨッシーのタマゴ ○ ワリオシリーズ W ○ ゼルダの伝説シリーズ トライフォース ○ チンクルシリーズ ルピー ○ 星のカービィシリーズ ワープスター ○ ポケットモンスターシリーズ モンスターボール ○ メトロイドシリーズ スクリューアタック ○ スターフォックスシリーズ スターフォックスのシンボルマーク ○ MOTHERシリーズ 初代と2のタイトルのOの部分 ○ F-ZEROシリーズ キャプテン・ファルコンのヘルメットについてる鳥 ○ ICECLIMBERシリーズ ボーナスステージのなすび ○ ファイアーエムブレムシリーズ ファルシオン ○ GAME&WATCHシリーズ ベルを鳴らす人 ○ パルテナの鏡シリーズ 神弓 ○ ピクミンシリーズ バコバカバナ ○ ファミリーコンピュータ ロボットシリーズ ジャイロセット ○ どうぶつの森シリーズ アイテム化した家具 ○ Wii FITシリーズ ダンスのポーズ ○ パンチアウト!!シリーズ ボクシンググローブ ○ ゼノブレイドシリーズ モナド ○ ダックハントシリーズ カモ ○ ベヨネッタシリーズ アンブラの時計 ○ Splatoonシリーズ イカ ○ 黄金の太陽シリーズ 黄金の太陽ロゴ ○ プロレスシリーズ チャンピオンベルト ○ 罪と罰シリーズ 罪罰 ○ ちびロボ!シリーズ ! ○ マッハライダーシリーズ ▼ ○ エキサイトバイクシリーズ モトクロッサー ○ 謎の村雨城シリーズ 謎 ○ ARMSシリーズ ARMS ○ パンドラの塔シリーズ パンドラの塔ロゴ ○ バルーンファイトシリーズ 風船 ○ スーパースコープシリーズ スーパースコープ × パーフェクトダークシリーズ スパイクローク × パネルでポンシリーズ ☆ ○ ピクトチャットシリーズ デュアルスクリーン × エレクトロプランクトンシリーズ ナノカープ × クルクルランドシリーズ ウニラ × nintendogsシリーズ 肉球 × スクリューブレイカー 轟振どりるれろ カスタムロボシリーズ 伝説のスタフィーシリーズ ファミコンウォーズシリーズ デビルワールドシリーズ 大合奏!バンドブラザーズシリーズ シムシティシリーズ くるくるくるりんシリーズ すれちがい伝説シリーズ 王さまの帽子 × トモダチコレクションシリーズ 家 × パイロットウイングスシリーズ ライトプレーン × Wii Sportsシリーズ ウーフーアイランド × 脳を鍛える大人のDSトレーニングシリーズ カエルの為に鐘は鳴るシリーズ シェリフシリーズ ザ・ローリング・ウエスタンシリーズ カラーテレビゲームシリーズ いつの間にか交換日記シリーズ スティールダイバーシリーズ スティールダイバー × 零シリーズ ジョイメカファイトシリーズ バッジとれ~るセンターシリーズ 絵心教室シリーズ [[]] [[]] [[]] [[]] [[]] メタルギアシリーズ ! ○ ソニック・ザ・ヘッジホッグシリーズ ソニックの横顔 ○ ロックマンシリーズ ○ パックマンシリーズ ○ ストリートファイターシリーズ ○ ラリーXシリーズ × FINALFANTASYシリーズ ○ ギャラクシアンシリーズ × 悪魔城ドラキュラシリーズ ○ ペルソナシリーズ ○ DRAGONQUESTシリーズ ○ バンジョーとカズーイの大冒険シリーズ ○ モンスターハンターシリーズ ボンバーマンシリーズ バーチャファイターシリーズ Shovel Knightシリーズ [[]]
https://w.atwiki.jp/3dsmiisuretigai/pages/13.html
人気商品一覧 @wikiのwikiモードでは #price_list(カテゴリ名) と入力することで、あるカテゴリの売れ筋商品のリストを表示することができます。 カテゴリには以下のキーワードがご利用できます。 キーワード 表示される内容 ps3 PlayStation3 ps2 PlayStation3 psp PSP wii Wii xbox XBOX nds Nintendo DS desctop-pc デスクトップパソコン note-pc ノートパソコン mp3player デジタルオーディオプレイヤー kaden 家電 aircon エアコン camera カメラ game-toy ゲーム・おもちゃ全般 all 指定無し 空白の場合はランダムな商品が表示されます。 ※このプラグインは価格比較サイト@PRICEのデータを利用しています。 たとえば、 #price_list(game-toy) と入力すると以下のように表示されます。 ゲーム・おもちゃ全般の売れ筋商品 #price_list ノートパソコンの売れ筋商品 #price_list 人気商品リスト #price_list
https://w.atwiki.jp/3dsmiisuretigai/pages/10.html
@wikiにはいくつかの便利なプラグインがあります。 アーカイブ コメント ニュース 人気商品一覧 動画(Youtube) 編集履歴 関連ブログ これ以外のプラグインについては@wikiガイドをご覧ください = http //atwiki.jp/guide/
https://w.atwiki.jp/3dsmiisuretigai/pages/7.html
アーカイブ @wikiのwikiモードでは #archive_log() と入力することで、特定のウェブページを保存しておくことができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/25_171_ja.html たとえば、#archive_log()と入力すると以下のように表示されます。 保存したいURLとサイト名を入力して"アーカイブログ"をクリックしてみよう サイト名 URL
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/217.html
戦いは終わった。全ての元凶たる魔王は倒され、街に平和が戻った。 1つの事件が終わりを告げた。そして、事件が終わったのなら…異邦人は去らねばならない。 翌日、学園祭の振り替え休日。 「もう少しゆっくりしていけばいいのに」 倉地香が少しだけ寂しそうにいのりに言う。 「ごめんなさい。もう、帰らなくちゃいけないんです」 本当にすまなそうにいのりが答える。 あの後、最後の報告を終え、任務は晴れて完了した。 ウィザードの2人には労いと称賛の言葉と、十分な報酬が支払われ…同時に命令が下された。 ただちに帰還せよ、と。 この世界には本来いない存在であるウィザードがとどまれば、無用の混乱を招く。 だから、事件が解決したのならば即刻帰還せよ。それが、上の判断だった。 本来なら決して来るはずのない時間、1台の列車がやってくる。 ロンギヌス特別急行秋葉原ゆき。この世界とファー・ジ・アースを結ぶ特別列車。 この世界の人間が紛れ込まないようにウィザードで無いと乗り込めない仕組みにはなっているその列車の発車まで、あと少し。 「そう、残念ね。また、いつでも遊びにいらっしゃい。歓迎するから」 「…あはは。そのときはまた、何か厄介なことが起きてるってことですよ?」 倉地の言葉に困ったな~と言う笑顔を浮かべる。異世界間の行き来は、そんなに簡単にできることじゃない。 それがあるってことは…しなきゃならないほどヤバいことが起きてるってことなのだ。 だが、いのりの言葉に倉地は言い切る。 「あら。別に問題ないわよ」 は?と言う表情のいのりに、艶然とした笑みでさらに言葉を紡ぐ。 「たとえそうなっても、貴方がいれば、絶対に何とかしてくれるんでしょ?それにもし今度そう言う事があったら…今度はあたしも手伝ってあげるわ」 例え戦うことができなくたってやれることはある。 それに… 「あたしは、見てるだけって好きじゃないの。そ~いう面白そうなことがあったら、いつでも言ってちょうだい」 「…分りました!じゃあ、何かあった時は頼みますね!」 力強い倉地の言葉にいのりは笑顔で答え、握手をする。 「そう、それでこそいのりさんよ。それにしても…」 倉地がふと思い出してその言葉を口にする。 「本当はミニ三石ちゃんも来れれば良かったんだけどね。急だったからしょ~がないけど、こ~ゆうときに限って取材に行ってるなんて」 困ったものだと倉地がため息をつく。休みの日に突発的にどっかに取材に行って夜まで帰ってこないってのが習慣なのだ。 ミニ三石ちゃんこと…三石春美は。 「…あ、はい。そ、そですね…」 倉地が何気なく言った言葉にいのりがちょっとだけ暗い顔になる。 倉地には言えなかった。三石春美の正体を。言ったら多分悲しむから。 流石は魔王と言うべきか、この世界から消滅しわずかな残滓を残すだけの今の状態でも、存在としての春美はまだ残っていた。 多分、これからゆっくりと忘れられていくんだろうね、とは静の弁である。 「残念ですよね…」 本心からの言葉で、いのりが言う。確かに昨日の夜は怖かった。 だけど、それでも。1ヶ月の間、一緒に色々した記憶は無くならない。 そう、あの小うるさくて元気な突撃レポーター娘を、いのりは嫌いになりきれないでいた。 あんなじゃなければ友達になれた…いや、友達のままでいられたかも知れないのに。 「今度会う、そのときは…」 ポツリ、とごく小さな声で。 「…敵じゃなければいいなあ」 いのりが呟いたまごうことなき本音は、誰の耳にも入ること無く消えて言った。 「静さん…向こうに行っても元気でやってくださいね風邪とかには十分気をつけてくださいねそれとたまにはお手紙とかくださいねメールでもいいですから」 1ヶ月の間、様々な苦楽を共にした不思議研の部員にしてクラスメイトに、三石小夏は手を取って矢継ぎ早に話しかける。涙を流しながら。 今日、本人から電話で知らされたときは本当に驚いた。留学が昨日までで、今日はもう帰ることになってたなんて、知らなかったから。 「はい。気をつけます。ありがとうございました。1ヶ月間、楽しかったですよ。小夏さん」 にこやかな表情を崩さずに静が答える。 静にとってこの街に来たのは任務だからだ。だが、1ヶ月の滞在と学園生活は、確かに楽しかった。それも事実なのだ。 「はい。待ってます。あ、そういえば…」 コロッと立ち直り、そちらの方を見る。2人を見送りにきた、残りの2人。 「お二人とも、静さんといのりさんのお知り合いだったんですね。ちょっと驚きました」 「いのりちゃん、静さん、向こうでも元気で頑張って。また、なんかあったら言ってくれ」 「2人とも、ありがとう!また、遊びに来てね!」 銀之介と唐子が口々に言う。その手は自然につながれている。 「ええ。何かあったらお願いします。多分これからも…色々あると思うんで」 静がちょっとだけ顔を曇らせる。この街の事件は解決したが、根本的な部分の問題は残っている。 プラーナが豊富なこの世界、侵入者はこれからも現れるだろう。 こちらの世界にいるウィザード級のものたちとのつきあいも含め、色々と考えていかなくてはならないだろう。 問題は、山積みなのだ。 「そういえば、銀之介はこれからどうするの?」 いのりが何気なく聞いた疑問に、唐子と銀之介が顔を見合わせる。 「ああ、それはね…」 「銀之介君はね…ホームステイしてこの街で暮らすって!」 銀之介の言葉をついで、唐子が嬉しそうに言う。。 「とりあえず、一人立ちできるめどが立つまでだけどね」 銀之介は決めていた。これからは、この街で暮らしていく。大切な人のいるこの街で。 「へえ~ホームステイですか?どんな人なんですか?」 興味シンシンと言った感じで小夏がたずねる。それに銀之介は頷いて答えた。 「飯波市に父さんの知り合いが住んでいるらしいんだ。それで事情を話したら、好きなだけ居ていいって」 「確か銀之介君のお父さんがアメリカで知り合った人だって言ってたよね。名前は…花丸さんだっけ?」 「花丸?」 倉地が怪訝そうに眉をひそめる。びみょ~に嫌な予感を感じて、銀之介に尋ねる。 「駒犬君…」 「なんですか?」 「その人…もしかして前原町に住んでたりする?」 「あれ?知ってるんですか?」 銀之介が不思議そうに尋ねる。 「このあと、2人を見送ったらその家を訪ねることになってるんです。と言っても詳しい場所は知らないんですけど」 「前原町駅にいけば分かるって言われたんだっけ。迎えに来てるのかな?でも時間の指定は無かったんだよね?」 「そう…」 銀之介と唐子の話を聞いて倉地は確信する。 「じゃあ、色々と大変だろうけど、頑張ってね」 ものすご~く同情をこめて、きょとんとしてる2人に、倉地が言った。 ピリリリリリ… 「あ、そろそろみたい」 「さて、そろそろみたいですね」 警笛の音を聞いて2人が電車に乗り込む。少しして、扉が閉まり、電車が動き出す。 「それじゃあ、またいつか!」 「それじゃ~ね!」 ブンブンと手を振ってお別れの挨拶をする。電車はすぐに加速して、駅のホームも見えなくなった。 「…でも、ちょっぴり残念だったね」 走り出した電車の席に座り、いのりが静に話しかける。 「何がだい?」 「サフィーちゃんのこと。お別れ、言えなかったなって」 不思議そうに問い返す静にいのりが溜息をもらす。 『全部終わったから旅に出るでしゅ さよならは言わないでしゅ サファイア』 手紙を残し、サフィーは何処かへと消えていた。恐らくは夜のうちに経ったのだろう。 服とかの荷物も全部なくなっていた。 「しょうがないさ。あの子は…サフィーちゃんは根っからの風来坊みたいだしね。 それに、サフィーちゃんはデイウォーカーとして今までできなかったことだってできるようになったんだ。楽しんでくれればいいさ」 「え~?せんせい的にサフィーちゃんはそんなもんなの?」 何か悟ったように言う静に不満げにいのりは言う。 「昨日はあんなに必死だったのに」 「え?」 「『帰ってこい!サフィー!』いや~熱いね、青春だね。せんせいも若かったんだね~」 「んなっ!?」 「あんなにギュッと抱きしめて、ボロボロ泣いてたのに~」 「い、いのり君!そう言うのじゃないんだよ!」 いつもは冷静な静が真っ赤になる。 「ほら、あれはその…な、仲間!そう仲間を失いたくないってやつで…」 「いい雰囲気だったな~。思わずあたしはお邪魔虫だから退散しようかと思ったもん」 「だからあれはホッとしたって言うか…」 「けっこうお似合いだと思うよ。なんだかんだで息ぴったりだったしね~」 静の必死の言い訳も通じない。いのりのちょっぴりの嫉妬も含んだスーパーからかいタイムは東京に到着するまで続いたと言う。 …ところで、話はちょこっとだけさかのぼる。 「静さん…もう帰っちゃうなんて…」 ぐるぐるメガネの少女、三石小夏がその話を聞かされたのは、今日の朝のことだった。 「本当に残念だな~」 溜息をつく。せっかく出来たお友達が帰ってしまうなんて。 これだけ寂しいのは、唐子が卒業して以来だ。 「…あれ?あの子…」 げっそりと溜息をつく小夏がその女の子に気づいたのは、本当に偶然だった。 駅の券売機で、なにやら首をかしげている…小さな女の子。確か駒犬先輩と一緒にいたような気がする。 「あの…どうしたんですか?」 根は親切な少女である小夏はその赤毛の女の子に話しかける。 「え?…ああ、切符が売ってないんでしゅよ。お金はこれで足りるはずなんでしゅけど」 流暢な日本語で話してはいるが、明らかに外国人の女の子は、小夏の方を向いて答える。 「切符が売って無い?」 小夏は首をかしげて、そのことに気づく。 その手には1万円札が握られている。子供料金ってのを考えるとちょっとその辺の駅までって話じゃなさそうだ。 「ああ、遠くの駅に行くんだったらこの券売機だと無理だと思いますよ」 遠距離用の券売機に案内し、お金を入れてあげながら、聞く。 「それで、お嬢ちゃんはどこまでの切符が欲しいのかな?」 その問いに、少女は笑顔で答える。 「え~と…東京の、秋葉原ってところでしゅ!」 「ありがとうでしゅ。三石のお姉ちゃん」 「い~え。困ったときはお互いさまなんで気にしないでください」 少女が手を振る。それに手を振り返しながら、小夏はふと考えた。 (そ~言えば…なんであんな小さな子が一人で?) かすかな不思議の香りをかぎとって考え始める小夏だったがすぐに気づく。 「あ!そうだ!静さんといのりさん!」 そうだ。元々見送りに来たんだった。うっかり忘れるところだった。 「大変!すぐに行かないと」 慌てて走り出した小夏は、すっぱりと先ほどまでの疑問を忘れ去っていた。 「…さてと」 小夏がいなくなったのを確認して、赤毛の少女が歩き出す。 「ロンギヌスとやらの特別急行って、確かこっちのホームだったわよね?」 さて、どうすればバレずに乗り込めるだろうか。 そんなことを考えながら、知らず知らずの笑みを浮かべる。 昔、世界中を逃げ回ってた頃の感覚が蘇る。昼間の間に逃げるためにあちこちに潜りこんだりした記憶。 最もあの頃は最初っから切符を買おうとか思わなかったことを考えると丸くなったんだろう。多分。 「異世界ってどんなところなのかしら?」 したいようにする。やりたいようにやる。そのために…生き続ける。 それが、少女のやり方。永遠を退屈せずに暮らすために選んだ道。 「お楽しみは、これからよ」 そう言って笑う少女の口元で。 小さな牙がきらりと光った。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/194.html
ややあって。 銀之介たちはお土産を買い終えて、再び文化祭を見て回っていた。 「サフィーちゃん、重くない?」 銀之介がサフィーに尋ねる。買った荷物はサフィーが全部預かっている。 とは言っても 「いや、全然?」 そう答えるサフィーは手ぶらであったが。 「でも、ど~やったの?いつの間にか消えたみたいに見えたけど」 サフィーが荷物をしまう様子を見ていた唐子が首をかしげて尋ねる。 唐子の目には突然荷物が消えたように見えた。 「…まあ、ちょっとした手品みたいなもんでしゅ」 そう言えば銀之介と唐子には詳しい話をしてなかったと気づき、面倒くさいのでてきと~に答える。 サフィーは、ウィザードの持つもう一つの汎用特殊能力、月衣に荷物を全部しまっていた。 「へえ。すご~い。サフィーちゃん、手品もできるんだ!」 てきと~な説明だが、唐子的にはそれでいいらしい。素直に感心する。 見ると銀之介も同様らしい。うんうんと感心して頷いている。 「あんたら…も~少し疑り深くても罰は当たらないわよ?」 その能天気っぷりに思わずジト目になるサフィーだった。 * 「あ、あれ、静さんじゃない?」 その姿に最初に気づいた唐子が静を指さす。 その先では静がいつものにこやかな笑顔を浮かべて、受付をしていた。結構盛況だ。 黒いスーツに黒マント、いわゆる吸血鬼の格好が大人っぽい静によく似合っている。 「あ、でもあそこって…」 「ん、あそこは…」 銀之介と唐子はほぼ同時に気づいた。静が受付をやっている場所。そこは… 「「…不思議研!?」」 2人が同時に驚いて声を上げる。 「やあ、銀之介君に唐子さん、それとサフィーちゃんじゃないか」 その声で静が3人に気づいて振り向く。 「いやあ、この手のお祭りに生徒として参加するのは初めてだったけど、結構楽しいね」 そう答える静の笑顔は本物だ。 幼いころから天才魔術師として英才教育を受け、日本に来てすぐ教職についた静には生徒としての経験は無い。 それだけに“ごく普通の学園生活”は、静には新鮮なものだったのだ。 …もっとも、ごく普通と思ってるのは当人だけだったりするのだが。 「あ、そうだ。銀之介君もどうだい?」 そう言って、静は後ろの怪しげな扉を指さす。 どうやら今年の不思議研の出し物らしい。 「えっと、何の出し物なの?」 中から聞こえてくるわ~だのきゃ~だのうぎゃ~だの言う悲鳴にちょっとだけ顔を引きつらせながら銀之介がたずねる。 その問いに笑顔のまま、静は答えた。 「お化け屋敷さ」 「お化け屋敷?」 不思議研らしいと言えばらしいが文化祭の定番。 えらく普通な出し物に銀之介は頭を傾げる。 「そ。ただのお化け屋敷じゃないよ。僕と小夏さん、春美君が頭を捻って作った本格派。結構評判いいんだよ?」 えらく自信満々で静が言う。 だが、静の言葉もあながち外れでは無いようだ。 こうして話している間に次々にお客が来て入って行く。主にカップルが。 「で、どうだい銀之介君に唐子さんも」 「いや~僕はやめとこ~かな~と」 こ~ゆ~のはあんまし得意じゃない銀之介は目をそらして乾いた笑いを上げる。 「え~?」 それに不満そうな声を上げたのは唐子だった。 「けっこう面白そうじゃん。それに2人なら、怖くないって…多分」 こうして話している間にもちらほらと入って行くカップルをちらちらと見ながら、唐子が言う。 よく見るとちょっぴり顔が赤くなっている。 それを見て、静がにこやかに言う。 「そうだね。2人で入ればそんなに怖くないんじゃないかな?」 「そ、そうかな?」 どうやら銀之介は気づいて無いらしい。どこかほっとしたように言う。 「うん。さっきから2人で入って行く人が多いのはそれもあるかもね」 「じゃ、じゃあ少しだけ」 静の言葉に背中を押されるように銀之介は入ることを決意する。 「ああ、アタシは興味ないから待ってるでしゅ」 その様子を見て、サフィーが聞かれる前に応える。 「唐子と2人で行ってくるでしゅ」 ならば、と銀之介は唐子の方を向く。 「じゃ、じゃあ唐子…」 「な、なに?」 「い、一緒に行こうか」 「う、うん」 2人して、頷いておずおずと不思議研の扉に近づく。 開けると、真っ暗な入口が口を開いていた。 「あ、そうそう」 それを見て、静が今思い出したとでも言うようなざ~とらしい口調で言う。 「中は暗いから、手をつないで行った方がいいと思うよ?」 2人の顔は真っ赤になった。 * 「…なんか、手慣れてたわね」 2人がいなくなったのを確認し、サフィーが素に戻る。 「ははは。前に、ちょっと奥手な男の子と臆病な女の子の恋を橋渡しする任務があってね」 あの2人を見ていて、静は思い出していた。6ヶ月前のこと。永遠に続く夏の世界のことを。 「あの時は失敗したら世界が壊れかねなかったから、必死だったよ」 「ふふっ、そんなことで壊れるなんて、難儀な世界」 静の言葉を冗談と受け取ったサフィーが吹き出す。 「冗談じゃあないんだけどね」 少しだけ心外そうに言う。 「それにサフィーちゃんだって、2人だけにしたり、手慣れてるじゃないか」 「…ちょっと、似たような2人のことを思い出しちゃってね」 サフィーもまた、思い出していた。6年前のこと。人生で一番楽しかった3ヶ月間のことを。 「あの2人、幸せになれるといいわね」 「ああ、心からそう思うよ」 そう呟く2人の目は、優しい大人の目。 2人とも、見た目よりからは想像もつかないほど大人なのだ。 「…それに。アタシはアタシの用事があるし」 話を終え、サフィーがぽつりとうつむいて呟く。 「あの2人が一緒じゃあ出来ないしね」 それと同時に空気が凍る。サフィーが月匣を展開したのだ。 「用事ってなんだい?サフィーちゃん」 無意識のうちに静は腰を浮かせていた。いつでも動けるように。 長年の経験と勘の賜物である。 「…別にね。人間の食べ物がまずいってわけじゃないわ。むしろおいしいと思う」 朗々と。サフィーが静に語りかける。うつむいたまま。 「ただね、やっぱりずっとだと、ど~しても欲しくなるの。ある意味アタシたちの本能ね」 「答えになって無いよサフィーちゃん」 そうは言いながら静は臨戦態勢をとり、じりじりと後ろへ下がる。 近距離では目の前の少女を相手にするにはあまりにも不利だ。少しでも距離を取らないと。 そんなことを考えながら。 「ま、そ~ゆ~わけだから」 サフィーが顔を上げると同時に体内の魔力を活性化させる。 トムソンガゼルを前にしたライオンのように。 「断る!」 ガゼルは逃げ出した。 「ちょっと、まだ最後まで言ってないでしょ~が!」 予想外の動きにサフィーが叫ぶが、静は無視して走った、魔法をも駆使して。 捕まったらどうなるか。そんなことは考えるまでも無い。 かくして、魔術師と吸血鬼の、ある意味食物連鎖の営みとも言える鬼ごっこが開始された。 * さて、2人が食うか食われるかの鬼ごっこに興じていた一方その頃。 「あ、あそこで終わりみたいだよ」 唐子が出口らしきものを指さした。ちょっぴり青い顔で。 銀之介とつないだままの手には白くなるほど力がこもっている。 「よ、ようやくか…」 銀之介の顔もちょっぴり青い。 オカルト大好き三石ちゃん姉妹が監修しただけあって、お化け屋敷に仕掛けられた小道具はえらいリアルなものだっ た。 ついでに怖がらせる役は演劇部から借りてきた部員を使い、演技指導にも力を入れた。 「まさか扉に仕掛けがあるなんて…」 「うん。次の部屋では扉に気をつけてたら床から出てくるし」 「その次で離れて開けたらいきなり後ろの壁から出てきたときには心臓が止まるかと思ったよ」 そして、長年の経験をいかした、静=ヴァンスタインの悪ノリの数々。 まさに、本格派だった。色んな意味で。 ゴールが近いせいか、この辺りは少しだけ、赤っぽい光で照らされている。 「でも、楽しかったね」 「え?」 唐子がぽつりと言った言葉に、銀之介は首をかしげる。 「そ~か?僕はやっぱりこういうのは…」 「そうじゃなくて」 相変わらず鈍感な銀之介に唐子は苦笑する。 「こうして、また2人でいられるようになったことが、だよ」 「2人で?」 「そ」 唐子が頷く。 「あたしたち、2年間、ずっと一緒だったよね」 「え?ああ、そういえばそうだな。引っ越しも無かったし」 「だからってんじゃないけどさ、半年前に銀之介君がいなくなったら、ものすごく寂しくてさ」 唐子が遠い目をする。 唐子にとって、銀之介が隣にいるのは、当たり前の日常だった。 高校の2年間、ずっとそうだったから。 「そうだな…僕もそうだった。転校して、知り合いがいなくなるのは慣れてたはずなのにな」 銀之介もまた、遠い目をする。 銀之介にとって、別れはごく普通のことだった。引っ越しばっかりしていたから。 だから、慣れている。だから、大丈夫…じゃあ無かった。 銀之介にとっても唐子が隣にいるのが、当たり前の日常だったから。 「まあ、いつかは帰ってくるって信じてたけどね。約束したし」 その銀之介が1ヶ月前、突然帰って来た時は本当に驚いた。 もっともその銀之介が来たのは厄介な事件を解決するためで、再会を喜ぶどころじゃなかったが。 だからこそ、唐子は嬉しかったのだ。こうしてまた、何気ない日常を2人で過ごせるようになったことが。 「ソバカスが消える前に帰ってきちゃったのはちょっとだけ残念だったけど」 も~っと奇麗になって、驚かしてあげる予定だったのに、と軽く冗談めかして笑う。 「でも、約束、守ってくれたね。ありがとう」 その、柔らかい表情に、銀之介の心臓が跳ね上がる。 「えと、あの…」 叔父さんのことが無かったら、きっと帰ってくる勇気は持てなかった。 そんな自分が情けない。しどろもどろになりながらも何か言わねば、そう決意して口を開こうとした。 その瞬間だった。 「カップルボクメツウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!」 ひび割れた声が辺りに響き渡り、2人の目の前に巨大な化け物が現れる。真っ赤なボディーと鳥の頭を持った憎いや つ。 「のわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!????????」 「きゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!????????」 突然の登場に2人は驚いた。無茶苦茶驚いた。 2人とも腰が抜けて思わずその場にへたりこむ。 「ひゃ~はっはっはっは!だいせ~こ~!カップルなんてみんな…ってえ!?」 笑いながら出てきて、一気に顔を青ざめさせたのは1人の少女。何故かメイド服を着た、ショートヘアの少女。 彼女に銀之介は見覚えがあった。そう、それは銀之介が初めて出会った魔法使い。 「ぎ、ぎぎぎぎ銀之介にととと唐子さん!なんでここに!?」 要いのりその人である。 ← Prev Next →
https://w.atwiki.jp/nwxss/pages/208.html
話はちょこっとだけさかのぼる。 「…っけぷ」 サフィーが幸せそうに可愛らしいげっぷをする。 「ごちそうさま。やっぱりこれが一番ね」 久しぶりのご馳走に対して、満足げに言う。 「うう…酷いじゃないか、サフィーちゃん」 ご馳走こと静がちょっぴり青くなった顔で、抗議した。 若き天才魔術師と歴戦の吸血鬼。魔法の腕前も知恵も経験もほぼ互角。 だが、1つだけ。体力が違った。 普通の人間と大して変わらない魔術師では文字通りの意味で鬼のような体力を持つ吸血鬼にかなうわけも無い。 「あら。アタシは吸血鬼よ?血を吸うのは当然じゃない」 悪びれる様子も無くあっけらかんと言う。 「むしろご馳走を目の前にして1ヶ月も我慢してたのよ?感謝して欲しいぐらいだわ」 血を吸うと言う行為は吸血鬼に取っては本能に近いものだ。 いくら飢えてないとはいえ、目の前でちらつかされては我慢にも限界がある。 「だけど…」 納得いかない静がさらに言葉をつむごうとした、その時だった。 ぴんぽ~んぱ~んぽ~ん 「本日、午後2時より体育館にて演劇部による創作劇『僕の血を吸わないで』を上演いたします。 皆様、是非見に来て下さいますようお願いいたします」 「…僕の血を吸わないで?」 サフィーが首をかしげる。 聞き覚えがあるそれは割と最近…そう、ここ10年位の間に。 「…ああ」 少し考えて思い出した。あの頃に妹から聞いたことがあった。 思い出したサフィーがちらりと静の方を見て、言った。 「ねえ、アンタ、暇ならちょっと付き合ってくれない?」 * 「やったわ」 「ああ、やったな」 長い戦いが、終わった。恐るべき吸血鬼狩人は、ついに2人の前に敗れ去ったのだ。 「これで私たち一族を脅かすものはなくなった。闇の中に自由が生まれたんだわ」 「よかったな」 2人に安堵の笑顔が浮かぶ。 「ありがとう真太郎。私のために」 「いいってことよジル」 「真太郎」 ジルと呼ばれた少女が真太郎と呼ばれた少年にとびついた。 「真太郎、噛んでも…いい?」 見つめ合い、ゆっくりとジルが真太郎に聞いた。 「………ああ」 真太郎もまたゆっくりと頷いた。決意を込めて。 「もう光の世界には出てこれない。成長も止まる。おいしいものも食べれない。人間でなくなる。それでもいいの?」 「ああ、ジルと一緒だから。闇の世界でもかまわない。ジルと共に永遠を生きるよ。孤独を感じることなくね」 真太郎の瞳には、もう迷いは無かった。一番大切なものが何か、分かったから。 「真太郎」 ジルの唇がそっと真太郎の唇に触れる。そしてそのまま首筋へ。 永遠の愛のテーマが流れる中、ゆっくりと幕が下り、体育館中に拍手の音が鳴り響いた。 「あ、あはは…すごかったね」 まさか高校生の演劇でキスシーンまでやるとは思っていなかった唐子が誤魔化すように言う。 何しろすぐ隣にはまだ1回しか唐子とキスをしたことのない(他はノーカン)男の子と一緒に見たのだ。 照れてしまうのも無理は無い。 「いや~まさかキスまでするなんて…あの2人って恋人かなんかなのかなそうだとしたら納得だけどそ~じゃなかったら演劇にかける魂っていうか…聞いてる?銀之介君」 隣を見て気づく。 「え?ああ、ごめん。何?」 「も~だからキスするなんてすごかったねって!」 「あ、うん。そうだね」 銀之介が気のない返事を返す。唐子がその返事にむくれるが、銀之介は気づいていなかった。 『もう光の世界には出てこれない。成長も止まる。おいしいものも食べれない。人間でなくなる。それでもいいの?』 ギクリとした。自分でも気づいていなかった本心をつかれたような気がして。 半年前、叔父さんと戦った時に、自分の中で一番大切な人が誰だかは分かった。 だが、同時にこうも思った。それを伝えてはいけない、と。 何故かはずっと分からなかった。 けれども気づいてしまったのだ。なぜ伝えてはいけないか。 …伝えてしまったら、そして彼女がそれを受け入れてしまったら、駒犬の人生に巻き込んでしまうから。 正体がばれるたびに迫害されて逃げ出すか、誰も来ないような山奥でひっそりと暮らすか。 2つに1つ。それが銀之介の知る限りの狼人間の生き方だった。 銀之介の父親、銀一郎は前者の暮らしを選んだ。幼く、いまだに変身を制御できない自分を抱えて。 そのせいで引っ越しを25回もして来た。 唐子は、ありのままの自分、狼人間の銀之介を受け入れてくれた大切な人だ。 だから、余計な苦労はかけたくない。 狼人間と暮らすと言う事は、とても大変なことだから。 唐子には幸せになって欲しい。だけど、自分が幸せにできるかって言われたら…分からない。 けれど、狼人間と暮らすよりは普通の人間同士で結ばれた方が幸せになれる。そう、思ったのだ。 「銀之介君?本当にどうしたの?」 ずっとうわの空な銀之介を見て、今度は心配になったのだろう。唐子が不安げに銀之介に話しかける。 「い、いや!ただちょっと劇に感動しててさ!その、面白かったから!」 ハッとして銀之介が返した、その時だった。 「まさか貴様のような狼男にかつて我らが女神が主演を務められたこの劇の素晴らしさが分かろうとはな…」 ガタッ 前の席の客が一斉に立ち上がる。 ぞわぞわと、銀之介の背中にいも虫が走る。 全員、飯波高校の男子だ。だが、異様な雰囲気を発している。 「ま、まさか…」 銀之介は知っている。こいつらの正体を。 「だが、貴様は我らの宿敵。ここで会った以上、貴様には…死ンでモらウ…」 ゆっくりと振り向いた彼らの額には、そろいの鉢巻きが巻かれている。間違いなかった。 「「く、倉地先生のファンクラブ~!?」」 銀之介と唐子が同時に叫ぶ。 いつの間にやらファンクラブの面々は手に手にすりこぎなどヤバい武器を手にしている。 血走った目。説得や話し合いでどうこうできる相手では無い。 変身していない銀之介には、万に一つも勝ち目は無かった。 「こ、こんな時に…」 銀之介は歯がみする。助けを呼ぼうにも既に囲まれて、ファンクラブ員以外の人間は見えない。 「ぎ、銀之介君…」 「行クぞ!死…」 武器を手にし、銀之介に襲いかかろうとして…突然、横薙ぎに吹っ飛んだ。 純粋な力の奔流による吹き飛ばし。これができるのは… 「サフィーちゃん!」 「…ったく、劇くらいゆっくり見せなさいよね」 空気が、凍る。サフィーが月匣を展開したのだ。 ぽふっと音を立てて静を抱えたサフィーが降り立つ。 「2人とも、怪我は…無さそうだね。よかった」 抱えられたまま、静が2人の状態を見極め、ほっと息をつく。 唐子は月匣の力にあてられて気絶してるが命に別状はなさそうだ。 「銀之介君、唐子さんを連れて今のうちにここを…うわ!?」 そして、静が銀之介に逃げるよう言おうとした、その瞬間、サフィーに突き飛ばされる。 「痛っつう…」 サフィーの顔が苦痛に歪む。ナイフで切られたのだ。ファンクラブの連中に。 「邪魔ヲスル奴ハ…ゼンブ、シネ」 「さ、サフィーちゃん大丈夫!?」 「な、何でこいつ等動けんのよ!?」 腕を抑えながら、サフィーが目を白黒させる。今、確かにここはサフィーの月匣が展開されている。 予想外の出来事に3人はそちらに向きなおる。そして気づいた。様子がおかしいことに。 「な、なんなんだ…?一体…」 銀之介が困惑する。全員の目が血走り、筋肉が異様に隆起している。 その姿はまるで人間と言うよりも… 「彼らは…」 いち早く正体に気づいた静が冷汗を垂らす。 「…銀之介君、今すぐ変身して」 「え?あの…」 「僕ら2人だけじゃあ、多分そんなに長く持たない。君がある程度攻撃を引きつけてくれないと、ね。 それとサフィーちゃん…殺さない程度に、攻撃してくれ」 「ちょっと…いいの?相手は…」 「…エミュレイターさ。今の“彼ら”は、ね」 静が敵を見る目で、彼らを見る。どこから集まってきたのか、その数は優に100人は超えている。 見た目こそただのファンクラブのメンバーだが…間違いなく、凶悪な瘴気を放っていた。 「憑かれしものと戦ったことはあるけど…あれだけの数を相手にするのは…僕も始めてだ」 その言葉と同時に。 一斉に彼らが襲いかかってきた。 * 一方その頃。 要いのりは、走っていた。 つい先ほど、静から連絡があった。大量の憑かれしものが現れて、苦戦していると。 何でも倉地ファンクラブの連中がエミュレイターとり憑かれたらしい。 「確か…あそこには春美ちゃんもいるはず!」 先ほど春美が言っていた。演劇部の手伝いがどうとか。きっと春美も、体育館にいる。 「でもせんせい、なんで…」 静がいのりに0-phoneで頼んできたこと。それは助太刀ではなく… 「あ、いた!」 ある人物を連れてくること。 彼女は、強力なプラーナを持ち、ウィザードの資質を秘めた人物。 「い、いのりちゃん?どうしたの?そんなに慌てて」 月匣の中でも行動可能な数少ない人物。 「倉地先生!何も聞かずにあたしについて来て下さい!みんなが、ピンチなんです!」 「次から次へと!コイツらしつこすぎ!」 サフィーが不可視の力で次々と襲いかかってくる連中を吹き飛ばしながら悪態をつく。 エミュレイターに人間の限界ぎりぎりまで力を絞り出されているためか、倒れない。 吹き飛ばす端から立ち上がり、再び襲ってくる。 殺してはいけない。それが足かせになっている。 「うわ!?おわ!?っとと…うりゃあ!」 銀之介が攻撃を巧みにかわしながら攻撃する。 元々、殺さない程度に攻撃は慣れてるだけに巧みに気絶させていく。 だが、いかんせん数が違いすぎる。すでに何度か攻撃を受けて、ところどころから血が流れている。 「駄目だ…数が多すぎる!」 「もう少しだ!いのり君が来るまで、何とか持ちこたえてくれ!」 0-Phoneでいのりと連絡を取った静が2人に言う。 「持ちこたえろって…いのりが来てもど~にかできるとも思えないんだけど」 要いのりのファイアーワークスではサフィー以上に手加減がきかない。 「それとも、本気でやっちゃうつもり?」 「いや、違う」 サフィーの物騒な提案にかぶりを振る。 「いのり君に僕が頼んだのは…」 「いっけえ、ファイアーワークス…扉をぶち破っちゃえ!」 轟音と共に体育館の重い扉が吹き飛ぶ。憑かれしものの何人かが巻き込まれてぐえっとつぶれた。 「おまたせ!連れてきたよ、せんせい!」 吹き飛んだ扉の向こう側に立っていたのはいのりと… 「あんたたち…」 飯波高校の女帝。倉地香。 彼女は怒っていた。大事な生徒に手を出されて怒らないのでは、教師じゃあ無い。 それに彼女に宿るチョモランマより高いプライドは、一方的なリンチなど認めないのだ。 「今すぐ、やめなさい!」 ファンクラブの面々がびくりと身体を震わせる。 普通ならばありえない。エミュレイターに取りつかれた人間が、その程度で止まるなど。 だが、それでも、倉地香の命令は、確かにその場にいるファンクラブを止めて見せた。 その場にいた百を超える人間が一斉にひざまずき、エミュレイターの支配をのがれたのは、圧巻ですらあった。 (どうなってんのよ) その光景を見たサフィーが、静に聞く。それに静は小声で答えた。 (…倉地先生を見たとき、気づいてたんだ。倉地先生も、ウィザードになれるほどのプラーナの持ち主だってこと) 一説にはこの学校の男子生徒と教師数百人を抱えると言うファンクラブの女神。圧倒的なカリスマと絶対的な命令。 (この世界には僕らウィザードの常識すら越える人たちがごろごろいるからね) それに、静は覚えがあった。中等部に、かつて似たような力を持つウィザードがいたから。 それは、圧倒的なカリスマで持って幾多の配下、否“下僕”を指揮して戦う、ファー・ジ・アースにはいないクラス。 その力を、倉地香は身につけていた。6年前、一度人外になったことによって、無意識のうちに。 (異世界専用クラスに近い力の持ち主と言うのもありってこと、だね) (…ま、吸血鬼になった時に妙に強いとは思ったけど…つくづく変な世界だわ、ここ) 静の分かったような分からないような説明を聞いて、サフィーが嘆息した。 「クックック…まさか、こんな幕引きになろうとはな…」 ファンクラブ全員が倒れ伏した体育館で、上からその声は聞こえた。 「「「「「…っえ!?」」」」」 その場にいる5人全員がその声の正体に驚く。全員が知る人物であり、同時に敵である人物だったから。 「数の力でなら、押し切れるかと思ったが…つくづく異世界のウィザードは手ごわいな」 オールバックと白衣の吸血鬼、ドクターアラキが下を見ながら呟く。 「出来れば邪魔が入らぬように先に片づけておきたかったが、仕方あるまい」 マントのように白衣を翻し、その場にいる全員に宣言する。 「今宵。満月の下でこの場所から我が主の支配がはじまる。邪魔をするなと言っても無駄だろうから、言っておいてやろう。 来るのならば、私とあの男、そして我が主が、全力で貴様らを排除する。こころして、来るがいい」 殺意を込めて言うと、掻き消えるように去っていく。 「…あれ?え?ど~なってんの?銀之介君」 月匣が消え去ったお陰で唐子が目を覚まし、状況がつかめずに混乱する。 「えっと…」 それは、銀之介も同じだった。困ったように静を見る。 「とりあえず、説明してちょうだい。あたしにも、分かるように。ね、静君?」 今回初めて巻き込まれた倉地が、静に迫る。 「…分りました。あまり時間は無いようなので手短ながらお教えしましょう」 嘆息して静が説明を始めようとする。だが、それはいのりの叫び声によって中断された。 「せ、せんせい、外、外!」 口をパクパクさせながら、いのりが外を指さす。そして、全員がその異常に気づいた。 体育館のぶち破られた扉から見える空。 それが赤かったのだ。 …天に昇った紅い月のせいで。 * 一方その頃。 「…さて、そろそろやな」 紅き月に照らされた飯波高校の屋上で、狼男と吸血鬼を従えて、その少女は笑う。 「あいつら始末できんかったんは痛かったけど、ま、それも一興や」 イレギュラーな事態に邪魔されたが、それも少女にとっては嬉しい誤算と言ったところだ。 何しろ、また新しいことが分かった。 「まさか使いこなせるとは思わんかったわ。つくづくおもろいなあ。この世界は」 少女は新しいことを知ることが好きだった。同じくらい新しいことを伝えるのが好きだった。 「おもろいもんが多くて、プラーナも豊富」 新たな驚きに満ちたこの世界は、自分の新しい領土にふさわしい。だからこそ、狙った。 「カミーユはんももうおらへんしな」 2週間前、目下最大のライバルだった奴の写し身は滅ぼされた。ウィザードと、この世界の住人の手によって。 しばらくは裏界にこもりっきりだろう。他の連中はまだここに目をつけてない。この世界を狙うなら、今が絶好のチャンス。 「ちゅうわけで、何百年ぶりか忘れたけど、久方ぶりに全力でいかせてもらうとするわ」 誰に言うともなく、少女は宣言する。そう、彼女こそすべての黒幕。 「告発者ファルファルロウの世界征服。ま、ファー・ジ・アースやないのが残念やけど、な」 飯波市に現れた、魔王なのだ。 ← Prev Next →